副業・兼業を取り巻く制度の流れ
副業・兼業については、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を平成30年(2018年)1月に策定し、その後、令和2年(2020年)9月および令和4年(2022年)7月に改定しています。あわせて「モデル就業規則」も2018年1月に改定され、副業・兼業を原則として認める方向に内容が見直されました。
これまで多くの企業で「副業禁止」が一般的な就業規則の規定でしたが、現在は労働者の多様なキャリア形成・所得確保の観点から、原則容認・必要に応じて制限する考え方へ転換しています。
就業規則の見直しポイント
- 副業・兼業を原則として認める規定に変更
- 事前の届出制または許可制を導入
- 制限事由(労務提供上の支障、企業秘密漏えい、信用毀損、競業による利益侵害)を明示
- 労働時間通算・健康管理の取扱いを明記
労働時間の通算ルール
労働基準法第38条第1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。労働者が複数の使用者と労働契約を締結している場合、原則として双方の労働時間を通算して、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える部分について時間外労働として取り扱います。
原則的な取扱い(通算管理)
原則は、自社の所定労働時間と他社の所定労働時間を通算し、自社の所定労働時間または他社の所定労働時間が法定労働時間を超える場合、後から労働契約を締結した使用者が時間外労働として取り扱い、割増賃金を支払う必要があります。所定外労働についても、時間的に後に行われた所定外労働を行わせた使用者が時間外労働として割増賃金の支払い義務を負います。
管理モデル
複数事業場での労働時間管理を簡便化するため、ガイドラインでは「管理モデル」が提示されています。これは、副業・兼業の開始前に、先に労働契約を締結した使用者(A社)の法定外労働時間と、後から労働契約を締結した使用者(B社)の労働時間(所定+所定外)の上限をあらかじめ設定し、それぞれが上限の範囲内で労働させ、上限を超える部分についてそれぞれの使用者が割増賃金を支払うという方式です。
- A社とB社の上限の合計が、月100時間未満・複数月平均80時間以内(時間外労働+休日労働の上限規制)の範囲内に収まること
- B社は労働時間の全てについて時間外として割増賃金を支払う
- 労働者からの申告等により他社の労働時間を都度確認する負担が軽減される
安全配慮義務と健康管理
使用者は労働契約法第5条に基づき、労働者の安全と健康に配慮する義務(安全配慮義務)を負います。副業・兼業を行う労働者についても、自社の労働時間管理だけでなく、副業・兼業先での労働も含めた健康管理が重要です。
- 労働者からの申告により他社での労働時間を把握すること
- 労働時間が長くなる場合は、産業医面談・健康診断・休養の確保等を実施
- 過重労働による健康障害が生じないよう、必要に応じて副業・兼業の中止や時間調整を求める
社会保険・雇用保険の取扱い
健康保険・厚生年金保険
複数の事業所で要件(週所定労働時間および月所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上、または特定適用事業所での短時間労働者要件を満たす)に該当する場合、それぞれの事業所で被保険者資格を取得します。労働者は「二以上事業所勤務届」を選択する事業所を管轄する年金事務所に提出し、保険料は各事業所の報酬月額に応じて按分されます。
雇用保険
雇用保険は、原則として主たる賃金を受ける1つの事業所のみで被保険者となります。ただし、令和4年(2022年)1月1日施行の雇用保険マルチジョブホルダー制度により、65歳以上の労働者については、2つの事業所での労働時間(それぞれ週5時間以上20時間未満)を合算して週20時間以上となる場合、本人がハローワークに申し出ることで「マルチ高年齢被保険者」として雇用保険に加入できるようになりました。
労災保険
令和2年(2020年)9月施行の改正により、複数事業労働者については、被災事業場の賃金のみではなく、すべての就業先の賃金額を合算して給付基礎日額が算定されます。また、労災認定における業務上の負荷(労働時間・心理的負荷等)についても複数事業を総合的に評価する仕組みとなっています。
2025年以降の動向
- 厚労省は2025年3月にガイドラインの「わかりやすい解説」を更新
- 労働時間通算の在り方について見直しが議論されている
- 副業・兼業を行う労働者の割合は引き続き増加傾向
- 企業側でも副業人材の受入れ(業務委託・短時間雇用)が広がる
まとめ
副業・兼業の解禁は、労働者にとってはキャリア形成と所得確保、企業にとっては人材獲得と外部知見の取込みというメリットがあります。一方で、労働時間通算、社会保険・雇用保険・労災保険の取扱い、安全配慮義務といった実務上の論点を正確に押さえることが不可欠です。
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