「130万円の壁」は健康保険の被扶養者から外れる収入基準、「106万円の壁」は勤務先の社会保険に加入する基準です。パート従業員の年収がこれらを超えると扶養を外れ、本人の保険料負担が発生します。会社側にも労働条件の見直しや社会保険の加入手続きといった対応が求められます。
3つの「壁」の早わかり(結論)
- 106万円の壁:一定要件を満たすパートが勤務先の社会保険に加入する基準(2026年10月に賃金要件は撤廃予定)
- 130万円の壁:健康保険の被扶養者でいられる年収の上限。超えると扶養から外れる
- 150万円の壁:配偶者特別控除が満額(最大38万円)受けられる税制上の基準
被扶養者制度とは
健康保険の被扶養者とは、被保険者の収入により生計を維持する家族で、健康保険法第3条第7項に基づき、被保険者の保険料負担で医療給付等を受けられる者をいいます。被扶養者として認定されると、本人は健康保険料を負担せずに医療を受けられるため、共働き世帯や扶養家族のいる世帯にとって重要な制度です。
また、配偶者が会社員等(第2号被保険者)の被扶養配偶者である場合、20歳以上60歳未満であれば国民年金の第3号被保険者として、自身の保険料負担なしに将来の老齢基礎年金の受給資格期間に算入されます。
被扶養者認定の3要件
- 生計維持要件:被保険者により主として生計を維持されていること
- 収入要件:年間収入130万円未満(60歳以上または障害厚生年金受給要件該当者は180万円未満)かつ、原則として被保険者の年間収入の2分の1未満
- 親族範囲要件:配偶者(事実婚含む)、子・孫・兄弟姉妹・直系尊属(同居要件なし)、その他3親等内の親族(同居要件あり)
親族範囲の詳細
同居していなくても被扶養者になれる親族
- 配偶者(事実上婚姻関係にある者を含む)
- 直系尊属(父母・祖父母等)、子、孫、兄弟姉妹
同居が必要な親族
- 上記以外の3親等内の親族(おじ・おば・甥・姪・配偶者の父母等)
- 事実上婚姻関係にある配偶者の父母および子
年収の壁の整理
「年収の壁」には、社会保険の壁(106万円・130万円)と税金の壁(150万円・201万円)があります。まず全体像を比較表で押さえましょう。
106万円・130万円・150万円の壁 比較
- 106万円の壁/制度:社会保険(適用拡大)/内容:要件を満たすと勤務先の健康保険・厚生年金に加入/影響:本人に社会保険料負担が発生(将来の年金は増える)
- 130万円の壁/制度:健康保険の被扶養者/内容:年収130万円以上の見込みで被扶養者から外れる/影響:国民健康保険・国民年金または勤務先の社会保険に自ら加入
- 150万円の壁/制度:税金(配偶者特別控除)/内容:150万円以下なら配偶者特別控除が満額(最大38万円)/影響:超えると控除が段階的に減少(201.6万円未満まで一部控除)
106万円の壁(社会保険適用拡大の基準)
パート・アルバイト等の短時間労働者でも、以下のすべてを満たすと勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入し、被扶養者から外れます。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8.8万円以上(年収換算約106万円)
- 2ヶ月を超える雇用見込み
- 学生でないこと
- 従業員数51人以上の特定適用事業所等に勤務
※令和7(2025)年6月に成立した年金制度改正法により、月額8.8万円の賃金要件は2026年(令和8年)10月に撤廃される予定です。全都道府県の最低賃金の上昇により、週20時間以上働けば自動的に月8.8万円を超えるためです。撤廃後は「週20時間以上」が加入の主な基準になります。企業規模(従業員数)要件も、現在の51人以上から令和9年(2027年)10月に36人以上、令和11年(2029年)10月に21人以上、令和14年(2032年)10月に11人以上へと段階的に縮小され、最終的に令和17年(2035年)10月に撤廃される予定です。
130万円の壁(健康保険の被扶養者基準)
健康保険の被扶養者として認定される収入の上限です。年間収入130万円以上となる見込みの場合、配偶者等の被扶養者から外れ、自身で国民健康保険・国民年金または勤務先の社会保険に加入することになります。
150万円の壁(税法上の配偶者特別控除)
所得税法上、配偶者の年収が150万円以下であれば、納税者本人(年収1,095万円以下の場合)は配偶者特別控除として最大38万円の所得控除を受けられます。150万円を超えると段階的に控除額が減少し、201万6,000円未満まで一部控除が受けられます。
2025〜2026年の主な改正動向
- 年収の壁・支援強化パッケージ:130万円超の一時的な収入増は、事業主の証明により連続2回まで被扶養者認定を継続可能
- 令和7年改正で月額8.8万円の賃金要件は2026年10月に撤廃、企業規模要件も2027〜2035年に段階的に撤廃
- 2026年4月から、被扶養者認定における年間収入の見込みは原則として労働契約書に記載された賃金から判定する取扱いに変更
扶養を外れる従業員に対して会社がやること
パート・アルバイト従業員が「壁」を超えて扶養を外れる場合、会社側にも実務対応が発生します。特に2026年10月の106万円の壁撤廃以降は、加入対象者が増えるため準備が欠かせません。
1. 対象者の把握と加入判定
週の所定労働時間・所定内賃金・雇用見込み・企業規模などから、社会保険に加入すべき短時間労働者を洗い出します。撤廃後は「週20時間以上」が主な判定基準になります。
2. 労働条件の見直し・シフト管理
本人が加入を希望しない場合の労働時間調整(週20時間未満に抑える等)や、逆に加入を前提とした処遇改善など、方針を決めてシフトを設計します。就業調整による人員不足のリスクも見据えた対応が必要です。
3. 社会保険加入の説明と手続き
加入対象となる従業員へ、保険料負担額・手取りへの影響・将来の年金増額メリットを丁寧に説明します。加入が決まったら、資格取得届の提出など社会保険の手続きを行います。労働条件通知書の記載変更も忘れずに行いましょう。
よくある質問(FAQ)
年収の壁に関するよくある質問
- Q. 扶養を外れると手取りはどのくらい減りますか?
A. 130万円を少し超えて社会保険に加入すると、保険料負担(年間おおむね20万円前後)が生じ、一時的に手取りが減る「働き損」が起こり得ます。ただし106万円の壁で社会保険に加入する場合は、会社と折半のため負担が抑えられ、将来の年金が増えるメリットもあります。年収と加入形態によって影響は変わります。 - Q. 従業員が扶養を外れるとき、会社は何をすべきですか?
A. 加入対象かどうかの判定、労働時間・シフトの調整、本人への説明、資格取得届などの社会保険手続き、労働条件通知書の見直しが必要です。2026年10月の106万円の壁撤廃で対象者が増えるため、早めの体制整備が重要です。
まとめ
被扶養者制度と「年収の壁」は、世帯の手取り収入や将来の年金額に直結する重要な論点です。2025年改正により従来の106万円の基準は撤廃に向かい、2026年4月からは認定の判定方法も変わるため、制度改正の最新動向を踏まえた対応が必要です。
当法人では、パート従業員の社会保険加入判定、106万円・130万円の壁を踏まえた就業条件・シフトの労務設計、従業員への説明資料の整備、資格取得届など社会保険手続きの代行まで一貫してサポートしています。「誰が加入対象になるか分からない」「2026年10月の制度改正にどう備えればよいか」といったご相談も歓迎です。パート従業員の社会保険や労務設計でお悩みの際は、お気軽にお問い合わせください。