日本の解雇規制の基本
日本では、使用者が一方的に労働契約を終了させる「解雇」は厳しく規制されています。中心となるのが労働契約法第16条に定める解雇権濫用法理で、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。
もともと判例上のルールでしたが、2003年の労働基準法改正で条文化され、2007年の労働契約法制定時に同法第16条として整理されました。
解雇予告(労働基準法第20条)
使用者が労働者を解雇する場合、労働基準法第20条により次のいずれかの手続きが必要です。
解雇予告のルール
- 少なくとも30日前に解雇の予告をする
- または30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う
- 予告日数と解雇予告手当は併用可能(例:10日前予告+20日分の手当)
平均賃金は、原則として解雇日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額です。なお、天災事変等で事業の継続が不可能となった場合や、労働者の責に帰すべき重大な事由がある場合は、労働基準監督署長の認定を受けて予告が不要となる例外があります。
3種類の解雇
1. 普通解雇
勤務成績不良、能力不足、傷病による就労不能、協調性欠如など、労働者側の事情で労務提供ができない場合の解雇です。就業規則に定めた解雇事由に該当することが前提となり、加えて客観的合理性と社会的相当性(労働契約法第16条)が要求されます。
2. 懲戒解雇
横領・重大なハラスメント・経歴詐称など、労働者の重大な企業秩序違反に対する制裁として行う解雇です。就業規則に懲戒事由と解雇の定めがあり、かつ罪刑の相当性・平等性・適正手続を満たす必要があります。退職金の不支給・減額が伴うことが多く、特に厳格な判断が求められます。
3. 整理解雇
経営上の必要性から人員削減を目的として行う解雇です。判例上、次の4要件(4要素)を満たすことが求められます。
整理解雇の4要件
- 人員削減の必要性:倒産回避レベルでなくとも、経営上の合理的理由が客観的に認められること
- 解雇回避努力:配置転換、出向、希望退職募集、賃金引下げ、新規採用停止などの回避努力を尽くしたこと
- 人選の合理性:勤続年数や年齢など客観的・合理的基準で対象者を選定し、基準に沿って公平に運用したこと
- 手続きの相当性:労働組合や対象労働者に対して、必要性・時期・規模・人選基準等を十分に説明し、納得を得る努力を尽くしたこと
退職勧奨と解雇の違い
退職勧奨は、使用者が労働者に自発的な退職を促す行為であり、解雇とは法的性質が異なります。労働者は理由を問わず退職勧奨を自由に拒否でき、応じれば「合意退職」、応じなければ雇用関係はそのまま継続します。
解雇権濫用法理の厳格な要件をクリアできない場合でも、退職勧奨により合意退職が成立すれば紛争を回避できるため、実務では先に退職勧奨を試みるケースが多くあります。
退職勧奨の進め方
退職勧奨自体は適法ですが、態様によっては違法な退職強要となり、損害賠償責任を負うリスクがあります。次の点に注意して進めます。
- 面談は短時間(目安1回30分〜1時間程度)・少人数・個室など落ち着いた環境で実施
- 労働者が拒否の意思を示した場合は、執拗な勧奨を控える
- 退職条件(退職金加算・有給消化・離職票上の理由など)を書面で提示する
- 「退職に応じなければ解雇する」「不利益な配置転換をする」など威迫的な発言を行わない
- 面談記録を残し、感情的な対応を避ける
退職強要が違法となるケース
裁判例では、次のような態様は社会通念上の限度を超える違法な退職強要と判断されています。
- 4ヶ月で30数回に及ぶ執拗な勧奨、寮への押しかけ、人格否定発言
- 多人数で1人の労働者を取り囲んでの長時間面談
- 勧奨拒否を理由とした賃金減額・降格・閑職への配転
- 怒鳴る、机を叩くなど威迫的な言動
違法な退職強要は民法709条の不法行為に該当し、慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。
合意退職と自己都合退職
退職勧奨に応じて成立するのは「合意退職」であり、自己都合退職とは異なります。離職票上は「事業主からの働きかけによる正当な理由のある自己都合退職」または「会社都合退職」として処理されることが多く、雇用保険の給付制限期間がない取扱いとなる可能性があります。労働者の不利益を避けるため、離職理由は事実に即して正確に記載することが重要です。
まとめ
解雇は法的リスクが極めて高く、安易に行うと労働審判・訴訟で無効となり、復職と未払賃金(バックペイ)の支払いを命じられる可能性があります。一方、退職勧奨も態様を誤ると違法な退職強要として損害賠償の対象となります。
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