パート・アルバイトの社会保険加入は、「年収の壁」として広く知られていますが、実際の判断基準は年収だけではありません。加入義務があるのに未加入のまま放置すると、遡って保険料を請求されるリスクがあります。この記事では、判断基準と会社の対応を整理します。
加入判断の2つの入口
- 原則:週の所定労働時間と月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上なら加入
- 適用拡大:4分の3未満でも、5要件を満たせば加入
- 106万円の壁:適用拡大の要件のひとつ(月額88,000円以上)
- 130万円の壁:被扶養者でいられるかどうかの基準(性質が異なる)
まず「4分の3基準」を確認する
パート・アルバイトであっても、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所の通常の労働者の4分の3以上であれば、社会保険に加入します。これは事業所の規模を問いません。
例えば通常の労働者が週40時間勤務なら、週30時間以上働くパートは加入対象です。この基準に当てはまる場合、年収がいくらであっても加入義務があります。
適用拡大の5要件
4分の3未満であっても、次の要件をすべて満たす場合は加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額88,000円以上(=いわゆる106万円の壁)
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生でない
- 特定適用事業所等に該当する
②の月額88,000円には、残業代・賞与・通勤手当・家族手当などは含めません。所定内賃金で判断する点に注意が必要です。
なお、企業規模の要件は段階的に引き下げられてきており、今後さらに拡大が予定されています。自社が対象かどうかは最新の要件を確認してください。
106万円の壁と130万円の壁の違い
| 106万円の壁 | 130万円の壁 | |
|---|---|---|
| 意味 | 本人が勤務先の社会保険に加入する基準 | 家族の被扶養者でいられる基準 |
| 判断する額 | 所定内賃金 月88,000円以上 | 年収見込み130万円以上(残業代・通勤手当も含む) |
| 対象 | 適用拡大の対象事業所で働く人 | すべての被扶養者 |
| 超えた場合 | 勤務先の健康保険・厚生年金に加入 | 被扶養者から外れ、自身で国民健康保険・国民年金または勤務先の社会保険に加入 |
混同されやすいのですが、106万円は「加入する」基準、130万円は「扶養から外れる」基準であり、性質が異なります。
会社が行うべき対応
- 対象者を洗い出す:全パート・アルバイトの所定労働時間と所定内賃金を確認します
- 加入手続きを行う:資格取得届を5日以内に提出します
- 本人へ説明する:手取りの変化と、将来の年金・傷病手当金などのメリットを伝えます
- 労働条件を見直す:本人の希望を踏まえ、所定労働時間の調整が必要な場合は労働条件通知書を改めます
- 継続的に管理する:契約変更やシフトの恒常的な増加で要件を満たすことがあります
未加入を放置するリスク
加入義務があるのに手続きをしていない場合、年金事務所の調査などで発覚し、最大2年間遡って保険料を徴収されることがあります。
この場合、従業員負担分も会社が立て替えて納付する必要が生じることがあり、退職者については回収が困難です。結果として会社が全額負担する事態にもなりかねません。
また、従業員が傷病手当金や出産手当金を受け取れなかった場合、損害賠償を求められる可能性もあります。
よくある質問(FAQ)
本人が加入を希望しない場合はどうすればよいですか?
社会保険の加入は法律上の要件を満たせば強制であり、本人の希望で加入・非加入を選ぶことはできません。所定労働時間を要件未満に変更するなど、労働条件そのものを見直す必要があります。
扶養の範囲で働きたいと言われました。どう対応すべきですか?
所定労働時間や賃金の調整について話し合い、合意した内容を労働条件通知書に反映してください。口頭の了解だけでは、後に認識のズレが生じます。
複数の会社で働いている従業員はどう判断しますか?
加入要件は事業所ごとに判断します。複数の事業所で加入要件を満たす場合は、被保険者所属選択届の提出が必要になります。判断が複雑ですのでご相談ください。
まとめ
パート・アルバイトの社会保険は、要件が段階的に拡大しており、「以前は対象外だったが、今は対象になっている」というケースが増えています。当法人では、対象者の洗い出しから加入手続き、従業員への説明資料の作成までご支援しています。「自社のパートが対象か判断できない」「未加入の期間があるかもしれない」といったご相談も承りますので、お早めにお問い合わせください。