社会保険の加入は法人であれば原則として強制で、本人の希望で選べるものではありません。未加入が判明すると最大2年遡って保険料を徴収され、しかも従業員負担分を回収できないことが多く、実質的に会社が全額を負担する事態になります。
この記事の結論
- 強制適用:法人は従業員1人でも適用事業所。本人の希望で加入・非加入は選べない
- 遡及期間:保険料の徴収権の消滅時効は2年。最大2年分を遡って徴収される
- 最大のリスク:従業員負担分を遡って回収するのは実務上きわめて困難
- 罰則:届出を怠った場合、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
そもそも加入は義務
健康保険・厚生年金保険は、次の事業所が強制適用事業所となります。
- すべての法人事業所(従業員が代表者1人だけでも適用)
- 常時5人以上の従業員を使用する個人事業所(一部の業種を除く)
そして、適用事業所に使用される者は、要件を満たせば本人の意思にかかわらず被保険者になります。「本人が加入したくないと言っている」は、加入しない理由になりません。
パート・アルバイトも、所定労働時間および所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上であれば加入対象です。4分の3未満でも、特定適用事業所等では週20時間以上・2か月超の雇用見込み・学生でないことの要件を満たせば加入対象となります(賃金要件の月額8.8万円以上は2026年10月1日に撤廃されました)。
関連記事:パート・アルバイトの社会保険加入|106万円・130万円の判断基準
発覚のきっかけ
未加入は、次のような経路で判明します。
- 年金事務所の調査:定期的に行われる適用調査。賃金台帳・出勤簿・労働者名簿の提出を求められ、加入漏れが確認されます
- 法人設立情報との突合:法人登記の情報から、未適用の事業所が把握されます
- 従業員本人からの申告:退職後に年金記録を確認して気づくケースが多くあります
- 労働基準監督署の調査からの連携
- 助成金の申請時:要件確認の過程で判明します
近年は法人登記情報等との突合が進んでおり、「ずっと指摘されていないから大丈夫」とは言えない状況です。
遡及適用と追徴のリスク
未加入が確認されると、本来加入すべきだった日に遡って資格取得の手続きを行い、保険料を納付することになります。
実務上の最大の問題
保険料は本来労使折半ですが、遡及分の従業員負担分を本人から回収するのは実務上きわめて困難です。
・在職者であっても、過去2年分をまとめて給与から控除すれば生活への影響が大きく、トラブルになります
・退職者からの回収はほぼ不可能です
→ 結果として、会社が全額を負担するケースが多くなります。
保険料の徴収権の消滅時効は2年です。従業員数が多いほど、また給与水準が高いほど、金額は大きくなります。
さらに、健康保険法・厚生年金保険法により、届出を怠った場合は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となります。
従業員とのトラブル
金銭面以上に深刻なのが、従業員との関係悪化です。
- 将来の年金額が減る:厚生年金に加入していなかった期間は、報酬比例部分が積み上がりません
- 傷病手当金・出産手当金が受けられなかった:本来受けられるはずだった給付を失った場合、損害賠償を求められる可能性があります
- 障害厚生年金・遺族厚生年金の対象外:万一の際の保障が受けられません
- 退職者からの申告:退職後に年金記録を見て判明し、そこから調査につながることがあります
「本人の希望で加入していなかった」という事情があっても、法令上の義務は会社にあります。合意があったことは免責の理由になりません。
適正化の進め方
未加入に気づいた場合、放置するほどリスクが膨らみます。次の手順で進めてください。
- 対象者を洗い出す:全従業員の所定労働時間・所定労働日数・賃金を確認し、加入要件に該当する人を特定します
- 遡及の範囲を把握する:いつから要件を満たしていたかを、雇用契約書・出勤簿・賃金台帳で確認します
- 概算額を試算する:会社の資金繰りへの影響を把握します
- 年金事務所へ相談する:自主的に申し出て手続きを進めるほうが、調査で指摘されるより対応の幅があります
- 従業員へ説明する:なぜ加入するのか、手取りがどう変わるかを事前に説明します。説明なしに控除を始めると必ず揉めます
- 労働条件を見直す:本人が扶養の範囲内を希望する場合は、所定労働時間の変更を協議し、雇用契約書に反映します
手取りが減ることへの不満は必ず出ます。将来の年金、傷病手当金、障害・遺族年金といった保障の内容をあわせて説明すると、納得を得やすくなります。
よくある質問(FAQ)
従業員本人が「加入したくない」と言っています。
本人の意思で加入・非加入を選ぶことはできません。加入要件を満たせば強制的に被保険者となります。扶養の範囲内で働きたいという希望がある場合は、所定労働時間や賃金そのものを見直し、労働条件を変更する必要があります。
代表者1人だけの法人でも加入が必要ですか?
必要です。法人は従業員がいなくても強制適用事業所となり、報酬を受けている代表者は被保険者となります。報酬がまったくない場合など例外もあるため、個別にご確認ください。
遡及して加入した場合、従業員負担分はどうなりますか?
法律上は労使折半ですが、過去分を本人から回収するのは実務上きわめて困難です。とくに退職者からは回収できないことがほとんどで、結果的に会社が全額を負担する例が多くなります。
まとめ
社会保険の未加入は、時間が経つほど遡及額が膨らみ、しかも従業員負担分を回収できないという構造的なリスクを抱えています。発覚してから対応するより、自主的に適正化するほうが負担も影響も小さく済みます。当法人では、加入要件の判定、遡及範囲の確認、年金事務所への対応、従業員への説明資料の作成までご支援しています。不安がある場合は、調査が入る前にご相談ください。