賃金台帳は労働基準法第108条によりすべての事業場に作成が義務付けられた法定帳簿です。保存期間は労基法第109条で5年(附則第143条の経過措置により当分の間は3年)と定められ、氏名・労働時間数・賃金額など10項目の記載が必要です。作成・保存を怠ると30万円以下の罰金の対象になります。
この記事でわかること(結論)
- 作成義務:全事業場・全労働者(パート・アルバイト含む)が対象
- 保存期間:5年(当分の間は3年)/起算日は最後の記入日
- 記載事項:氏名・性別・労働時間数・賃金額など10項目
- 罰則:作成・記載・保存を怠ると30万円以下の罰金
根拠条文の早見表
| 条文 | 定めている内容 |
|---|---|
| 労働基準法 第108条 | 賃金台帳の作成義務。事業場ごとに、賃金支払のつど遅滞なく記入する。 |
| 労働基準法施行規則 第54条 | 賃金台帳の記載事項10項目(氏名・性別・労働時間数・賃金額など)。 |
| 労働基準法 第109条 | 賃金台帳の保存義務・保存期間5年(記録の保存)。 |
| 労働基準法 附則 第143条 | 経過措置。第109条の5年は当分の間3年と読み替える。 |
| 労働基準法 第120条 | 違反時の罰則(30万円以下の罰金)。 |
条文の原文は e-Gov法令検索(労働基準法) でご確認いただけます。本記事では、条文が実務上どう運用されるかを社労士の視点で解説します。
賃金台帳の作成義務
賃金台帳は、労働基準法第108条により、すべての事業場に作成が義務付けられている法定帳簿です。使用者は、事業場ごとに賃金台帳を作成し、賃金の支払いのつど遅滞なく記入しなければなりません。
賃金台帳は、「労働者名簿」「出勤簿(タイムカード等)」と合わせて「法定三帳簿」と呼ばれ、労働基準監督署の調査時に必ず確認される重要な書類です。
賃金台帳は、日雇い労働者を含むすべての労働者について作成する必要があります。正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトも対象です。
必須記載事項
賃金台帳に記載しなければならない事項は、労働基準法施行規則第54条に定められています。以下の項目をすべて記載する必要があります。
賃金台帳の必須記載事項
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間:賃金の締め日から締め日までの期間
- 労働日数:賃金計算期間中の実際の労働日数
- 労働時間数:賃金計算期間中の実際の労働時間の合計
- 時間外労働時間数:法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた労働時間数
- 休日労働時間数:法定休日に労働した時間数
- 深夜労働時間数:午後10時から午前5時までの間に労働した時間数
- 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額:基本給、各種手当(役職手当、通勤手当、家族手当など)をそれぞれ区分して記載
- 賃金の一部を控除した場合はその額:社会保険料、所得税、住民税などの控除額
なお、日雇い労働者については、賃金計算期間の記載は不要とされています(労働基準法施行規則第54条第2項)。ただし、労働日数、労働時間数、賃金額等のその他の事項は記載が必要です。
記載にあたっての注意点
- 時間外労働、休日労働、深夜労働の各時間数は、それぞれ区分して記載する必要があります。まとめて記載することは認められません。
- 賃金の種類ごとに金額を記載する必要があるため、「諸手当一括」のような記載は不可です。手当ごとに分けて記載しましょう。
- 有給休暇を取得した日の取り扱いについても、労働日数や労働時間に適切に反映させる必要があります。
賃金台帳・出勤簿・給与明細の違い
賃金台帳は、出勤簿や給与明細と混同されやすい帳簿です。役割と保存期間の違いを整理しておきましょう。
3つの帳簿・書類の比較
- 賃金台帳:労働時間数と賃金額を記録する法定帳簿。作成義務あり(労基法108条)。保存期間5年(当分の間3年)
- 出勤簿(タイムカード等):始業・終業時刻など労働時間そのものを記録。賃金台帳の労働時間数の根拠となる。保存期間5年(当分の間3年)
- 給与明細:労働者本人へ交付する書類(所得税法等が根拠)。賃金台帳とは目的が異なり、明細の交付だけでは賃金台帳の作成義務を満たさない
給与明細と賃金台帳は記載項目が近いものの、給与明細には「労働時間数」の記載が任意である点などが異なります。給与計算ソフトの帳票を賃金台帳として使う場合は、後述の必須記載事項がすべて含まれているか必ず確認してください。
賃金台帳の様式
賃金台帳の様式は法律で厳密に定められているわけではなく、必須記載事項がすべて網羅されていれば、任意の様式を使用できます。厚生労働省のウェブサイトでは、様式第20号として参考様式が公開されています。
給与計算ソフトを使用している場合は、出力される賃金明細データに必須記載事項がすべて含まれていれば、それを賃金台帳として使用することも可能です。ただし、システムの出力帳票に不足する項目がないか確認しておきましょう。
賃金台帳の保存期間は5年(当分の間3年)
賃金台帳の保存期間は、2020年4月の労働基準法改正により、5年間に延長されました。ただし、経過措置として当分の間は3年間の保存で足りるとされています(労働基準法第109条、附則第143条)。2026年時点でもこの経過措置は継続しており、実務上は3年間の保存が最低ラインです。
ただし、未払い残業代などの請求権(賃金請求権)の消滅時効も当分の間3年(将来的に5年)とされていることから、労務トラブルへの備えとして5年間の保存を推奨します。将来、記録の保存期間が5年へ完全移行することも見据え、早めに5年保存の運用へ切り替えておくと安心です。
保存期間の起算日は、最後の記入をした日です(労基法施行規則第56条)。ただし、記入日より賃金支払日が遅い場合は、その支払日が起算日となります。
なお、電子データでの保存も認められていますが、必要に応じて書面に出力できる状態にしておく必要があります。
違反した場合の罰則
賃金台帳に関する違反には、以下の罰則が定められています。
- 賃金台帳を作成しなかった場合:30万円以下の罰金(労働基準法第120条)
- 必要な事項を記載しなかった場合:30万円以下の罰金(同上)
- 保存義務に違反した場合:30万円以下の罰金(同上)
- 虚偽の記載をした場合:30万円以下の罰金(同上)
労働基準監督署の調査(臨検監督)では、賃金台帳の内容が必ず確認されます。特に、時間外労働時間数と割増賃金の整合性はよくチェックされるポイントです。未払い残業代が発覚した場合は、是正勧告を受けるだけでなく、遡って支払いを求められることもあります。
法定三帳簿の保存期間
- 労働者名簿:労働者の退職・死亡の日から5年間(当面3年間)
- 賃金台帳:最後の記入をした日から5年間(当面3年間)
- 出勤簿等:最後の記入をした日から5年間(当面3年間)
よくある質問(FAQ)
賃金台帳に関するよくある質問
- Q. 賃金台帳は電子データで保存できますか?
A. 可能です。給与計算ソフトやクラウド上での電子保存も認められています。ただし、必要事項が漏れなく記録され、労働基準監督署の求めに応じて速やかに書面に出力できる状態を保つことが条件です。 - Q. 退職者分の賃金台帳はいつまで保存すればよいですか?
A. 退職後も、最後に記入をした日(または最後の賃金支払日)を起算日として5年間(当分の間3年間)保存する必要があります。退職と同時に破棄しないよう注意してください。 - Q. 給与計算を外注していても賃金台帳は必要ですか?
A. 必要です。作成・保存の義務は使用者(会社)にあります。外部委託先が作成する場合でも、必須記載事項が満たされているかを確認し、自社で保存できる体制を整えておきましょう。
まとめ
賃金台帳は、労働基準法で作成・保存が義務付けられた重要な法定帳簿です。必須記載事項を漏れなく記載し、保存期間5年(当分の間3年)を守って適切に保存管理しましょう。特に、労働時間の記録と賃金の計算に不整合がないよう、日頃からチェックする体制を整えることが大切です。
当法人では、賃金台帳・出勤簿・労働者名簿など法定帳簿の整備、給与計算のアウトソーシング、労働基準監督署の調査対応まで一貫してサポートしています。「記載事項に漏れがないか不安」「保存方法を電子化したい」といったご相談も歓迎です。賃金台帳や労務帳簿の整備でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。