労務トラブルの多くは、突然起こるのではなく潜在的な問題が放置された結果として表面化します。労務監査は、その潜在リスクを事前に洗い出す取り組みです。この記事では、点検すべき項目と進め方を解説します。
労務監査で確認する主な領域
- 法定帳簿:労働者名簿・賃金台帳・出勤簿が整備されているか
- 労働時間:客観的な把握、割増賃金の計算、36協定の範囲内か
- 規程:就業規則が法改正に対応し、届出・周知されているか
- 社会保険:加入義務者の未加入がないか、標準報酬月額は適正か
労務監査が必要になる場面
- 労働基準監督署の調査に備えたい
- M&A・事業承継:買い手側から労務デューデリジェンスを求められる
- 融資・上場準備:未払い賃金や未加入が簿外債務として問題になる
- 従業員数の増加:規模拡大に体制が追いついていない
- 担当者の交代:これまでの運用が適正だったか確認したい
- トラブルが起きた:同種の問題が他にないか確認したい
特にM&Aでは、未払い残業代や社会保険の未加入が発覚して取引価格が下がる、あるいは破談になるケースがあります。
チェック項目:労働時間と賃金
- 労働時間を客観的な方法で把握しているか(タイムカード、PCログ等)
- 始業前・終業後の業務時間が労働時間に算入されているか
- 割増賃金の割増率は適正か(時間外25%以上、深夜25%以上、休日35%以上、月60時間超は50%以上)
- 割増賃金の算定基礎に、除外できない手当が含まれているか
- 固定残業代は明確に区分され、差額が精算されているか
- 管理監督者の範囲は実態に即しているか
- 最低賃金を下回っていないか(毎年10月に改定)
チェック項目:規程と協定
- 就業規則は最新の法令に対応しているか
- 常時10人以上の事業場で、届出・周知がなされているか
- 賃金規程、育児介護休業規程などの附属規程が整備されているか
- 36協定が有効期間内で、届出済みか
- 労働者代表が適正な手続きで選出されているか
- その他必要な労使協定(賃金控除、変形労働時間制など)が締結されているか
チェック項目:社会保険と法定帳簿
- 加入義務のあるパート・アルバイトが未加入になっていないか(適用拡大の要件を含む)
- 標準報酬月額が実態と乖離していないか(月額変更届の漏れ)
- 労働者名簿・賃金台帳・出勤簿が法定の記載事項を満たしているか
- 年次有給休暇管理簿が作成され、年5日の取得義務が果たされているか
- 各書類が法定の期間(原則5年、当分の間3年)保存されているか
- 健康診断が実施され、記録が保存されているか
改善の優先順位
すべてを一度に是正するのは現実的でないため、次の順序で取り組むことをおすすめします。
- 金銭的リスクが大きいもの:未払い割増賃金、社会保険の未加入(遡及して請求される可能性がある)
- 罰則があるもの:36協定の未届出、法定帳簿の不備、健康診断の未実施
- トラブルの火種になるもの:就業規則の未整備、ハラスメント対策の不備
- 運用の改善:勤怠管理の方法、規程の周知方法
是正の過程で過去分の精算が必要になる場合、対象範囲と方法の判断が難しいため、専門家と相談しながら進めることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
労務監査はどのくらいの頻度で行うべきですか?
法改正の頻度を考えると、年1回程度の点検が理想的です。少なくとも、従業員数が大きく増えたとき、担当者が交代したとき、法改正が施行されたタイミングでは確認をおすすめします。
問題が見つかったら是正しなければなりませんか?
はい。ただし優先順位をつけて段階的に進めることが可能です。当法人では、リスクの大きさと是正の負担を踏まえた実行可能な計画をご提案します。
M&Aの労務デューデリジェンスにも対応できますか?
対応可能です。未払い賃金の試算、社会保険の未加入リスク、規程の整備状況などを調査し、報告書としてまとめます。
まとめ
労務監査は、問題が起きてから対処するのではなく、起きる前に手を打つための取り組みです。当法人では、御社の規模と課題に応じた点検を行い、リスクの大きさと優先順位を整理したうえで、実行可能な是正計画をご提案します。「一度きちんと確認しておきたい」という段階でのご相談を歓迎します。