賞与は法律上の義務ではない
まず前提として、賞与(ボーナス)の支給は法律で義務づけられているものではありません。労働基準法には賞与の支給を強制する規定はなく、支給するかどうか、いくら支給するかは、原則として会社が自由に定めることができます。
ただし、就業規則や賃金規程、賞与規程、あるいは労働契約や労働協約で賞与の支給基準が定められている場合は、その定めに従って支払う義務が生じます。「賞与を支給する」と規程に明記していれば、それは労働条件となり、会社の裁量だけで支給を取りやめることはできません。だからこそ、賞与のルールを規程で明確にしておくことが重要になります。
賞与の支給ルールを決める要素
- 査定期間(算定期間):どの期間の勤務・成績を評価対象とするか
- 支給日:いつ支給するか
- 支給対象者:支給日在籍要件、休職者・退職予定者の扱い
- 控除の取扱い:欠勤・遅刻早退をどう反映するか
支給日在籍要件
「賞与支給日に在籍している従業員にのみ支給する」という定めを、支給日在籍要件といいます。この要件を設けることで、支給日前に退職した従業員への賞与支給を行わない運用が可能になります。
支給日在籍要件の有効性については、最高裁判例で一定の判断が示されています。京都新聞社事件(最高裁 昭和60年11月28日判決)では、賞与の支給日在籍要件を定めた規定は有効と判断されました。自ら退職日を選択できる自発的退職者については、支給日在籍要件を適用して賞与を支給しないことが認められています。
ただし注意が必要なのは、定年退職や整理解雇など、退職日を従業員自身が自由に選べないケースです。こうした場合には、支給日在籍要件をそのまま適用することが妥当でないと判断される余地があります。要件を設ける際は、こうした例外的なケースへの配慮も含めて規程を整備することが求められます。
査定期間と支給日
夏季賞与は、一般的に前年冬から当年春頃までの一定期間を査定期間とし、6月から7月にかけて支給されるケースが多く見られます。査定期間と支給日は規程で明確に定めておくべき事項です。査定期間が曖昧だと、評価の根拠が不明確になり、従業員との認識のずれやトラブルの原因となります。
欠勤・遅刻早退の控除
賞与額の算定にあたり、査定期間中の欠勤・遅刻早退をどう反映するかも、あらかじめルール化しておく必要があります。出勤率や勤務成績を賞与額に反映させる場合、「ノーワーク・ノーペイの原則」に照らして合理的な範囲で控除・減額することは可能です。
ただし、控除の方法や割合が不明確なまま運用すると、従業員から「なぜこの金額なのか」という不満が生じます。控除の基準を賞与規程に明記し、査定基準を透明にしておくことがトラブル防止につながります。
退職予定者・休職者・産育休者の扱い
- 退職予定者:支給日在籍要件を設けていれば、支給日前の退職者への不支給が認められます。要件がない場合は、査定期間中の勤務実績に応じた支給が問題となり得ます。
- 休職者:査定期間中に休職していた従業員について、出勤率や勤務実績に応じて減額・不支給とすることは、規程に定めがあれば可能です。
- 産前産後休業・育児休業取得者:休業期間を欠勤と同様に扱い賞与算定に反映する場合、育児・介護休業法上の「不利益取扱い」に該当しないよう慎重な設計が必要です。休業を理由とした一律の不支給は違法と判断されるおそれがあります。
賞与にかかる社会保険料
賞与を支給する際は、社会保険料(健康保険・厚生年金)と雇用保険料の控除が必要です。賞与にかかる社会保険料は「標準賞与額」に保険料率を掛けて計算し、支給後には年金事務所への「賞与支払届」の提出が求められます。賞与の社会保険料の詳しい計算方法については、当法人の別の記事もあわせてご参照ください。
賞与規程の整備ポイント
- 支給対象者・支給日在籍要件を明確に定める
- 査定期間と評価基準を規程に明記する
- 欠勤・休職者・産育休者の取扱いを、不利益取扱いに配慮して設計する
- 「業績により支給しないことがある」旨を定め、支給義務化を避ける
まとめ
賞与は法律上の義務ではないものの、規程の定め方ひとつで会社の義務や従業員とのトラブルリスクが大きく変わります。支給日在籍要件、欠勤控除、休職者・産育休者の扱いなど、判例や関連法令を踏まえた慎重な設計が欠かせません。曖昧な運用は、思わぬ未払い賃金請求や不利益取扱いの主張につながりかねません。
当法人では、賞与規程・賃金規程の整備や見直し、支給日在籍要件をめぐるトラブル防止のためのルール設計、賞与支払届などの手続き代行までサポートしています。「賞与のルールが明文化されていない」「退職予定者や休職者への対応に不安がある」といった事業主様は、就業規則・賞与規程の整備についてぜひご相談ください。自社の実態に合った規程づくりをお手伝いいたします。