入社時の誓約書は、会社のルールを最初に確認してもらうための書面です。ただし、書けば何でも有効になるわけではなく、法令に反する条項は無効になります。この記事では、記載すべき内容と避けるべき条項を整理します。
この記事の結論
- 法律上の義務ではない:任意の書面。ただし実務上の意味は大きい
- 有効な内容:秘密保持、会社規程の遵守、SNS利用、提出書類の真実性など
- 無効になる条項:違約金・損害賠償額の予定(労基法16条)、強制貯金(同18条)など
- 取得のタイミング:関係が良好な入社時が最適。退職時では拒否されやすい
誓約書に記載する主な項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 就業規則等の遵守 | 就業規則その他の社内規程に従って勤務すること |
| 秘密保持 | 業務上知り得た情報を在職中も退職後も開示・使用しないこと。対象情報を具体的に列挙する |
| 個人情報の取扱い | 顧客・従業員の個人情報を適正に取り扱うこと |
| 提出書類の真実性 | 履歴書・職務経歴書等に虚偽がないこと |
| SNS・情報発信 | 業務上の情報や職場の写真を無断で投稿しないこと |
| 副業・兼業 | 届出のルールに従うこと(禁止ではなく届出制とするのが実務の主流) |
| 会社財産の取扱い | 貸与物を適正に管理し、退職時に返還すること |
| 反社会的勢力との関係遮断 | — |
競業避止義務を入れる場合は、対象者・期間・地域・職種を限定しないと有効性が認められにくくなります。一般職まで一律に縛るのは逆効果です。
関連記事:競業避止義務とは|誓約書の有効性と退職後の制限の範囲/副業・兼業の労務管理
書いても無効になる条項
次の内容は、誓約書に記載しても法令により無効です。
- 違約金・損害賠償額の予定(労働基準法第16条):「規則違反の場合は金○円を支払う」「○年以内に退職した場合は研修費用○円を返還する」といった、あらかじめ金額を定める条項は禁止されています。実際に生じた損害を個別に請求することまでは否定されませんが、額の予定はできません
- 強制貯金(労働基準法第18条):労働契約に付随して貯蓄の契約をさせることは禁止されています
- 賠償予定を伴う留学・研修費用の返還:業務性が強い研修の費用を退職時に返還させる約定は、16条違反と判断される可能性があります
- 退職の自由を制限する条項:期間の定めのない労働契約では、民法上、原則として2週間前の申入れで解約できます
「抑止力として書いておく」という考え方もありますが、無効な条項が入っていると書面全体の信頼性を損ない、争いになったときに会社側の姿勢が問われます。
身元保証書との違い
| 入社誓約書 | 身元保証書 | |
|---|---|---|
| 署名する人 | 本人 | 本人以外の保証人 |
| 目的 | 本人にルールを確認させる | 本人が会社に損害を与えた場合に備える |
| 期間 | 定めなし(在職中・退職後) | 期間の定めがなければ3年、定めても5年が上限(身元保証法) |
| 法改正の影響 | — | 2020年4月の民法改正により極度額(上限額)の定めがないと無効 |
身元保証書を使っている会社は、極度額の記載があるかを確認してください。2020年4月以降に締結したもので極度額の定めがないものは無効です。古いひな形をそのまま使っている例が多くあります。
取得のタイミングと運用
- 内定時または入社時に取得する:関係が良好で、本人も応じやすい時期です
- 内容を説明する:署名させるだけでなく、何のための書面かを説明します。説明を受けた記録が、後の有効性判断でも有利に働きます
- 就業規則と整合させる:誓約書だけに書いてあって規程にない、という状態は避けます
- 昇進・配置換えの際に再取得する:重要情報に接する立場になったタイミングで、秘密保持の範囲を具体化した誓約書を取り直します
- 退職時にも取得する:貸与物の返還、退職後の秘密保持を確認します
とくに退職時は、署名を拒否されると強制できません。入社時・昇進時に段階的に取得しておくことが、実効性を確保する唯一の方法です。
よくある失敗
- ひな形をそのまま使い、自社にない制度が書かれている
- 秘密情報の範囲が「業務上知り得た一切の情報」とだけ書かれている:広すぎて具体性を欠くと、実際の紛争で機能しにくくなります
- 就業規則に根拠がない義務を誓約書だけで課している
- 署名をもらって終わり、保管場所が不明:必要なときに出てこなければ意味がありません
- 違約金条項が残っている:労基法16条違反です
よくある質問(FAQ)
誓約書に署名を拒否されたらどうすればよいですか?
署名は強制できません。まず内容を説明し、懸念点を聞き取ってください。就業規則に定めがある事項については、誓約書の有無にかかわらず規程として適用されます。規程の整備が実質的な備えになります。
研修費用の返還を定めることはできますか?
業務命令による研修の費用を退職時に返還させる約定は、労働基準法第16条違反と判断される可能性が高いです。本人の自由意思による留学など、業務性が薄く、返還免除の仕組みがある場合に限り有効とされた例がありますが、慎重な設計が必要です。
身元保証書は今も必要ですか?
法律上の義務ではありません。採用するなら、2020年4月の民法改正に対応して極度額を定める必要があります。極度額の定めがないものは無効です。
まとめ
入社時の誓約書は、「取っていること」よりも「内容が有効で、規程と整合していること」が重要です。古いひな形には、いまでは無効な条項が残っていることが少なくありません。当法人では、誓約書・身元保証書の点検と作成、就業規則との整合確認、取得タイミングの設計までご支援しています。採用を増やす予定の会社は、この機会にご確認ください。