「もう少し様子を見たい」という理由で試用期間を延ばしたい——よくある相談です。しかし試用期間の延長は、就業規則に根拠がなければ原則としてできません。この記事では、認められる要件と正しい進め方を解説します。
この記事の結論
- 就業規則の根拠が必須:延長の可能性と事由・期間を定めておく必要がある
- 合理的な理由が必要:会社の都合だけでは認められない
- 無制限にはできない:不安定な地位を長く続けることは許されない
- 本採用拒否は「解雇」:通常の解雇よりは広い裁量が認められるが、自由にできるわけではない
試用期間の法的な位置づけ
試用期間は、労働者の適格性を判断するための期間です。判例では、試用期間中の労働契約は解約権が留保された労働契約と解されています。
重要なのは、試用期間中であっても労働契約は成立しているという点です。「お試しだから自由に辞めさせられる」という理解は誤りです。
本採用を拒否する場合、それは留保された解約権の行使=解雇にあたります。通常の解雇よりは広い範囲での解雇の自由が認められますが、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である必要があります。
延長が認められるための要件
試用期間の延長は、労働者を不安定な地位に置き続けることになるため、次の要件が求められます。
- 就業規則等に根拠があること:「会社が必要と認めた場合は、試用期間を○か月を限度に延長することがある」といった定めが必要です。根拠がなければ、原則として本人の同意なしに延長できません
- 延長する合理的な理由があること:判断材料が不足している具体的な事情が必要です。「なんとなく不安」では足りません
- 延長期間が相当であること:当初の試用期間と合わせて長すぎない範囲にとどめます
- 事前に本人へ通知すること:試用期間が満了する前に、理由と期間を明示して伝えます
就業規則に定めがない場合でも、本人の同意があれば延長できると解されていますが、同意は書面で残してください。
延長が認められやすい場合・認められにくい場合
| 例 | |
|---|---|
| 認められやすい | ・病気等で欠勤が続き、勤務状況を判断する機会が不足した ・一定の改善が見られ、本採用の可能性を残すために猶予を与える ・繁忙期等で十分な指導ができなかった |
| 認められにくい | ・特段の事情がなく「もう少し見たい」だけ ・会社の人員計画の都合 ・指導も評価もしていないまま期間だけ延ばす ・延長を繰り返す |
ポイントは、延長が本人にとって不利益一辺倒ではないかです。「本来なら本採用を拒否するところ、改善の機会を与えるために延長する」という位置づけであれば、合理性が認められやすくなります。
延長するときの手順
- 評価を記録する:何ができていて何が不足しているかを具体的に整理します
- 指導の事実を確認する:指導せずに評価だけしていないかを点検します
- 就業規則の根拠を確認する
- 試用期間満了前に本人へ通知する:延長の理由、延長後の期間、何が改善されれば本採用となるかを書面で伝えます
- 本人の受領を確認する:署名または受領記録を残します
- 延長期間中に指導と面談を行い、記録する
最も重要なのは「何が改善されれば本採用か」を明示することです。これがないと、延長が単なる先延ばしになり、後の本採用拒否の合理性も説明できません。
本採用拒否との関係
延長してもなお適格性が認められない場合、本採用拒否を検討することになります。
- 本採用拒否は解雇にあたります。14日を超えて引き続き使用している場合、30日前の解雇予告または解雇予告手当が必要です(労基法20条・21条)
- 採用時に把握できなかった事実が判明した場合に、客観的に合理的な理由として認められやすくなります
- 能力不足を理由とする場合、指導・教育を行ったかが重視されます
- 本人から請求があれば解雇理由証明書を交付する必要があります
関連記事:解雇予告手当の計算方法/採用内定・試用期間の労務管理
よくある質問(FAQ)
試用期間は最長どのくらいまで設定できますか?
法律上の上限はありませんが、長すぎる試用期間は公序良俗に反して無効と判断される可能性があります。実務では3〜6か月とする例が一般的です。延長する場合も、当初期間と合わせて相当な範囲にとどめてください。
試用期間中は社会保険に加入しなくてよいですか?
誤りです。加入要件を満たしていれば、入社日から被保険者となります。試用期間であることを理由に加入を遅らせることはできません。
試用期間中の賃金を本採用後より低く設定できますか?
可能ですが、最低賃金を下回ることはできません。また、労働条件通知書に試用期間中の賃金と本採用後の賃金の両方を明示しておく必要があります。
まとめ
試用期間の延長も本採用拒否も、判断そのものより「それまでに何をしたか」の記録で結果が変わります。指導の記録がないまま期間だけ延ばすと、後の判断を支えるものが何も残りません。当法人では、就業規則の試用期間規定の整備、延長通知書の作成、本採用可否の判断と手続きのご助言までご支援しています。迷われた段階でご相談ください。